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災害発生時の宿泊手配、その舞台裏にある熱き想いとは—―

こんにちは。
ルートインホテルズ公式note編集部のモンです。

みなさんは「JMAT・ジェイマット」をご存じですか?
「JMAT」は、Japan Medical Association Team の略で、被災者の生命及び健康を守り、被災地の公衆衛生を回復し、地域医療の再生を支援することを目的とする日本医師会の災害医療チームです。

 本年1月に発生した令和六年能登半島地震においても、被災地での医療支援に活躍されました。
 そして、私たちルートインホテルズも、「JMAT」の宿泊を受け入れ、
共に被災地の復興支援にあたりました。実は、ルートインホテルズと日本医師会は、災害時における支援協力に関する協定「災害協定」を締結しているのです。

 今回は、JMATの宿泊調整に携わった日本医師会の辻村氏をお招きし、当社の宿泊手配担当の飯村と当時を振り返っていただきながら、被災地での医療活動を支える宿泊施設の役割りや重要性について伺いました。

辻村 亨(つじむら とおる)
所  属:日本医師会 年金福祉課
主な業務:日本医師会会員(医師)向けの福利厚生制度の企画・運営
略  歴:損害保険会社勤務を経て、平成29年より現職。
     損害保険会社勤務時代に東日本大震災後に被災地にて、
     地震保険査定業務を経験。

飯村 拓哉(いいむら たくや)
所  属:ルートインジャパン株式会社 営業部国内旅行課
主な業務:国民スポーツ大会やオリンピックなど、
     大規模イベントにおける配宿調整を担当。
略  歴:平成24年に新卒入社。
     「まぐろダイニング美蔵」副店長を経て現在に至る。
     学生時代は演劇部に所属。


Q 最初に伺いたいのですが、被災地におけるJMATの"宿泊"についてどのような配慮が必要ですか?

辻村氏:災害時には、基本的に救護所の片隅で寝泊まりしながら、現地の皆さんの健康管理を行うのが通常のスタンスです。しかし、医療従事者自身が病気になっては元も子もありませんので、ある程度の健康を保てる環境にいることも重要です。

さらに、医師だけでなく、看護師、薬剤師、事務スタッフなどが、ひとつのチームとして活動します。医師が頑張れば良いというわけではなく、全てのメンバーが重要な役割を果たしています。また、医師をはじめチームには女性の方もいるため、チーム全員への配慮が必要であり、安心して宿泊できる先を確保する事が重要なのです。

Q これまで災害時のホテルの予約受付は、どのような体制でしたか?

飯村:2011年におきた東日本大震災の際には、ホテル毎に問い合わせと予約を受け付けるという方法を取っていました。しかし近年では、個人や旅行会社経由、また日本医師会のように災害協定を締結する団体など管理が複雑化していったため、それらをすべて現地のホテルでコントロールするのは困難になっていました。

そういった背景も踏まえ、1月の能登半島地震では、被災地周辺にあるホテルの予約受付を本部が一手に引き受ける体制に切り替えました。

「新たなこころみ、不安よりも"使命感"」と語る飯村

Q ところで能登半島地震は新年早々の発生でしたが、みなさんどこで何をされていたのでしょうか?また、何から取り掛かったのでしょうか?

辻村氏:当時、私は家の近所で犬の散歩をしていたのですが、一緒にいた娘が「石川県で大きな地震があった」と伝えてきました。日本各地で地震はよくあることなので、その時は特に大きな事態とは思わなかったのですが、家に帰ると津波や土砂崩れの被害が深刻であることがわかり、さらに現地の情報が取れなくなったことで「これはただ事ではない」と感じました。

その後、朝になり、輪島の朝市が火災で燃えてしまったことを知り、被害が広範囲に及んでいることが明らかになりました。これだけ広域に被害が出ると、多くの方が住む場所を失い、避難を余儀なくされる状況になります。加えて、医療機関も被害を受けていることが予想され、日本医師会によるJMATの派遣が必要になると直感しました。

その際、派遣される医療関係者がどこに滞在するのかを考えたとき、金沢市内だけでは宿泊施設が不足する可能性が高いと判断し、さらに奥能登地域まで視野に入れる必要があると考えました。そのときに、災害協定を結んでいるルートインホテルズが思い浮かびました。上司にも相談せずとっさに、自宅からルートインの窓口担当の名前を確認して、「今回の地震で日本医師会がJMATを派遣する予定なので、ご協力をお願いします」とメールをしました。

飯村:私は地震が発生した際、茨城県の実家に帰省しており、近くに遊びに行っていた帰り道で地震のニュースを聞きました。東日本大震災の際、現地のホテルでは様々な対応に追われ大変な状況にあったことを社内でもよく耳にしていたため、「現地のホテルに予約が殺到し、混乱するかもしれない」という思いがよぎりました。私たちは全国に349のホテルを展開しており、こういった非常時には本部スタッフが積極的に支援をしております。私が所属している営業部では日頃よりホテルの宿泊予約対応を行っていたため、災害時の予約手配を担当すべきだと思い上司に相談しました。「すぐにやってくれ」との指示を受け、1月3日には私と上司が出社し、輪島、氷見、七尾、金沢などのホテルの状況をヒアリングすることからはじめました。その情報を基に対応策を立てている最中に、辻村様からメールをいただいたのです。

辻村氏:「私が担当します」と飯村さんからメールが届きました。そして、日本医師会では対策本部が立ち上がり、JMATの派遣が決定しました。当然、「ところでホテルの手配はどうなっているのか?」という話になりました。
 飯村さんの情報によると、ルートイン輪島は2棟のうち1棟が利用不可で、もう1棟は少し手を加えれば使用できるかもしれない、ルートイン七尾駅東は若干の制約があるものの宿泊に問題なく、富山も多少の影響があるがほぼ利用可能という状況でした。
 ただ、私たちとしては、まずは輪島に拠点を置き、そこから珠洲や奥能登にアクセスしたいという意向が強く、他の場所(富山や金沢)ではなく、どうしても輪島に泊まりたかったのです。

 金沢には、ルートインさん以外の提携ホテルがいくつもあります。しかし、全国に展開しているホテルチェーンの中で、輪島にホテルがあり、本部の宿泊担当に依頼できるところは、ルートインさんしかない。これはもう、能登地域の宿泊先としては、ルートインさんにディペンド(頼る)しかないと判断しました。

ホテルルートイン輪島(石川県)
ホテルルートイン七尾駅東(石川県)
ルートイングランティア氷見 和蔵の宿 (富山県)

Q JMATの派遣にあたって、日本医師会が果たす役割や機能について教えてください。

辻村氏: 日本医師会には17万人を超える会員である医師が所属していますが、職員は200余名しかおりません。この点でお伝えしたいのは、都道府県医師会や市区町村単位の医師会(例:練馬区医師会など)は、すべて日本医師会とは別組織であるということです。

 日本医師会は一見、上位の立場のように見えますが、実際にはすべて「お願いベース」で動いています。つまり、都道府県医師会に対して指示を出す権限はなく、協力をお願いする立場です。
 例えば、石川県医師会から要請があった場合、日本医師会は「各都道府県医師会の皆様、石川県へのご支援にご協力をお願いします」という立場となります。
 都道府県医師会からは、「協力してあげよう」という形で人員が派遣されますが、その後の現地対応やロジスティクス(※)に関しては、すべて日本医師会が責任を持って進める必要があります。現地との調整や各種手配の役割を担っているのです。
※ JMATの活動に必要な医薬品・通信手段を確保することや、連絡・調整・情報収集等の業務

日本医師会とは…JMATとは…、その存在をもっと知って欲しい

 Q 「JMAT」と聞いても知らない人も多いのではないでしょうか?

 辻村氏: この点は課題です。2次避難された方々の健康管理をJMATが行っていたのですが、金沢などの旅館に避難されている方の健康管理をしようとした際、JMATのスタッフが個人情報を理由に入れてもらえないケースがありました。「医師会から来て、被災された方々の健康を見守るチームなんですよ」と説明すると、やっと理解してもらえました。

Q 能登半島地震で、宿泊手配の実際のやり取りはいかがでしたか?

飯村: 辻村さんから、私の連絡先を全都道府県の医師会に共有いただきました。その後より、沖縄県医師会や徳島県医師会といったように各地から連絡が入りました。
 しかし、知らない番号からの着信が多く、出てみないとどこの医師会か分からない状況でした。そして、要望もさまざまでした。まだ具体的な派遣計画は決まっていないが先に宿泊を確保しておきたい方や、すでにスケジュールが決まっているので早急に予約を確定してほしい方、今後の展開を見据えて1ヶ月間宿泊を確保してほしいという方など…。

飯村の電話は鳴りやむことを知らない

辻村氏: 47都道府県の医師会はそれぞれ独立した組織であるため、災害に対する対応や考え方が47通りあります。たとえば、「うちの県では5人派遣するが、1ヶ月間は絶え間なく出し続けます」というところもあれば、「大きい病院がすぐに医療従事者を出せるので、まずはこの人数分だけ確保してほしい」といった要望もあります。このように、各都道府県ごとに派遣の仕方や宿泊確保の人数が異なります。

 飯村さんへの連絡も、誰が何を伝えているのかの全体を把握しきれず、混乱が生じたことがありました。また、飯村さんからも「重複していませんか?」とか「この連絡は受けていませんが大丈夫ですか?」といった確認が入るのですが、最優先は現地に入ることだったので、ホテルの手配は後回しになり、うまく連絡が行き届かなかったこともありました。無駄になってしまった手配があったかもしれません。その点は申し訳なく感じています。
 今後、より広域な災害が発生した場合、宿泊先の手配に混乱が生じないよう次に向けて医師会内でルールを設ける必要があると思っています。

飯村:予約の変更が頻繁にあったため、私たちもその状況に対応する必要がありました。通常、現地ホテルとの予約手配は、イントラネットで内容を投稿し現地に調整を依頼していましたが、それでは追いつかない状況でした。そのため、私が当社の予約システムに遠隔で乗り込み、全ての予約を管理する形に変更しました。この方法を行ったことで、ホテル側の予約調整にかかる負担も大幅に軽減できたと思います。

辻村氏: 金沢でのJMAT調整本部の会議は毎週金曜日に行われていました。そこでは、次週以降のJMATの活動計画が決まります。その内容を飯村さんにメールや電話で連絡していました。できるだけタイムリーコンタクトを取ることを心がけていました。手元の宿泊枠が少ない中で宿泊を確保するのは非常に難しい状況だったかと思います。しかし、JMATの活動予定から宿泊見込みがわかれば、それをもとに調整がしやすくなるのではないかと感じていました。

「なにごとも、できるだけ早く情報の共有をすること」

Q そんな中、予約受付担当者として考慮した点はどんなことでしたか?

飯村: 日本医師会様だけでなく、震災が起きた際に宿泊を必要とする方々は多岐にわたります。政府関係者や省庁の方々、医療従事者の方々、さらには家を失い住む場所がない方々、そして復旧作業に携わるインフラ関係の企業の方々など…。 
 当時、ルートイン輪島で稼働できる部屋は102室でした。しかし、宿泊を希望される方はそれを大きく上回り、何百人もの方々がいらっしゃいました。ご提供できる部屋数には限りがあるため、どのようにして客室を振り分けるか、これがとても苦しい課題で、考慮したところです。


Q お二人が連携をとる中で、行き違いなどはありましたか。

飯村:はい。ありました。 辻村さんと一番熱が入ったのは、予約の取り扱いについてでした。例えば、A県の医師会がルートイン七尾駅東を予約をしていて、後にスケジュールが変更となりルートイン輪島に移動するとします。その場合、私たちは七尾駅東の予約をキャンセル扱いとし、他のお客様に提供すると認識しておりました。

 しかし、医師会側の認識では「七尾駅東にA県の医師会予約枠が残っている」と、キャンセル後もその枠は保持されるというというものでした。その結果「なぜ七尾駅東の部屋がなくなったのか?」と認識の違いが生じたわけです。

辻村氏: 途中から「キャンセルはしないでください。部屋を買取します。」というように、より確実な手配を求めるようになりました。
こちらも熱くなってしまって「この方法での予約ができないのであれば、今後、日本医師会とはお付き合いできないということですか?」と問いかけたことを覚えています。

飯村: その言葉から改めて、現場が非常に切迫していると感じました。直ちに、私たちも運用を変更する必要があると考え、予約システムの仕組みを見直したのです。

Q 予約システムはどの様に見直したのですか??

飯村:Googleスプレッドシートを活用しました。医師会の予約を集約し、ルートイン輪島の部屋番号や日付、宿泊している医師会の情報をリアルタイムで管理・共有することにしました。
 これにより、A県の医師会がキャンセルした場合、他の医師会がその空いた枠を確認し予約できるようになり、予約の変更が迅速に行われるようになりました。全国の医師会に状況を共有できたのは非常に有効だったため、 当時はこれが最善の方法だと思いました。
  今回のスプレッドシートは緊急対応として使用しましたが、将来的には、これをよりしっかりとしたシステムとして構築できれば、私だけでなく、医師会の方々や他の関係者も直接編集や予約ができるようになるかもしれません。これが実現すれば、もっとダイレクトな対応が可能になり、効率がさらに向上すると思います。

辻村氏:被災地では、JMAT、自衛隊、消防、警察、DMAT、日赤など、多くの情報がバラバラに点在していました。今後は、そういった情報を統合できる仕組みを作りましょうと医師会内で話していました。
 例えば、ルートインさんとのファイル共有をもっと拡張し、仮予約の仕組みを応援部隊向けに作成することや、医師会側で予約枠を自由に調整できる仕組みを考えることが重要です。必要に応じて、「あと5部屋追加でお願いできませんか?」と調整を依頼するような形ですね。

当時の顔つきに戻り、お互いの奮闘を振り返る相棒

Q では、共に災害対応に当たられた相棒にコメントをお願いします。

辻村氏:ルートインさんのように、さまざまな宿泊施設からリソースを集める仕組みを持っているところと提携できたこと。被災地に近い場所に複数の施設があったこと。そして、アンテナの感度が高く責任感の強い飯村さんがいたこと。これらは奇跡だと思います。また、本部としてこのような対応をしてくださるホテルチェーンは他にほとんどないと思います。
 時に、強引な態度を取ってしまったこともありました。それにも関わらず、飯村さんは最大限こちらの要望を汲んでくれました。失礼な物言いをしてしまったことへの反省と、感謝の記憶しかありません。

飯村:辻村さんが医師会やJMATの今後の動向について、リアルタイムにメールや電話でご連絡をくださっていたおかげで、次どうなるかを正確に把握することができました。また辻村さんは常に包み隠さず思いを伝えていただける方だったため、その思いは私にもストレートに伝わり、協定での繋がりを越えて、何とかこの人の力になりたいと感じるようになりました。また私だけでなく、ホテル側の立場に寄り添った辻村さんのこまめな気付きや気遣いが本当にありがたかったです。

Q ありがとうございました。それでは最後に伝えたいことがあればお願いします。

辻村氏:JMATの活動テーマは、『被災地に地域医療を取り戻す』です。医療機関がきちんと復旧し、住民の方々の生活が元に戻ることが最終目標です。地域の開業医やクリニック、そして地域医療支援病院が連携し、医療体制がしっかりと機能するようにすることが重要で、それを使命としてこれからも活動して参ります。

飯村:災害時には、被災された方々の命に関わる医療関係の方の受け入れ、そして、水道や電気、ガスといったインフラを復旧するために働く方々に活用いただいております。
 私たちルートイングループは、被災地を平常通りに戻す役割の方々を、宿泊施設を通じて支援すること、それが私たちの存在理由であり、社会貢献の1つであると考えております。 

 顔も知らず、会ったこともない二人が、災害時に「宿泊の手配」という共通の任務を通じて被災地の復興支援に挑み、いつの間にかそこには強い信頼と絆が生まれていました。
 
 先日、日本医師会とルートインが挨拶の場を設け、ついに二人は初めて顔を合わせました。…その瞬間、言葉では表しきれないほどの感情が溢れ、まるで長年の戦友が再会したかのような温かい心境を、お互いに感じたといいます。

 そして、ルートインホテルズは、災害時に多くの医療従事者の活動を支えた功績が評価され、公益社団法人日本医師会より感謝状をいただきました。

…しかし、彼らの心の中にある強い願い

それは、ふたたびこのタッグを組む必要がないこと。
そう、大きな災害がもう二度と訪れないことに他ならないのです。



【JMATの紹介動画】

JMAT活動の理解の一助になれば何よりです(日本医師会)




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